前々回の記事で税制改正について解説しましたが、その中で「少額取引の特例」というものがあったことを覚えていますでしょうか。
実はこの特例については、インボイス制度に伴う事務負担の軽減が狙いなんです。
インボイス制度が始まると、これまで無かった事務負担が増えてしまうため、事業者への過度な事務負担を避けるために、このような特例が創設されています。
そこで今回はインボイス制度が始まると、どのような事務負担が発生するのかについて解説していきたいと思います。
なぜインボイス制度が始まると事務負担が増えてしまうのかということについてですが、これはインボイス制度の「登録番号」が大きく関係しています。令和5年10月1日以降、本則課税制度を適用している事業者が仕入税額控除をおこなうためには、「登録番号」をはじめとする、特定の項目が記載された「適格請求書」の保存が必要になります。
そのため、
・取引から交付を受けた請求書に登録番号が記載されているかどうか
・請求書に記載されている登録番号が正しいものかどうか
・請求書の記載項目は適格請求書の記載条件を満たしているかどうか
などをその都度確認しなければならなくなります。
取引先が多い事業者さんは特に大変ですよね・・・。
このようにインボイス制度が始まると、これまで以上に経理担当者などの事務負担が増えてしまうことが予想されています。次では具体的な事務負担の事例について解説していきます。
まずは取引先から交付を受けた請求書に、「登録番号の記載がある場合」の事例です。交付を受けた請求書などに登録番号の記載がある場合でも、いくつか確認しなければならないことがあります。場合によっては複雑な流れになることもあるため、必ず一連の流れを確認しておきましょう。
まずはじめに、交付を受けた適格請求書に登録番号が記載されているかどうかを確認します。この「登録番号が記載されているかどうか」を確認することが出発点ともいえます。
しかし、令和5年度の税制改正により、少額取引(1万円未満の課税仕入)については、適格請求書が無い場合においても仕入税額控除ができるようになっています。そのため、1万円未満の少額取引であれば、登録番号の有無にかかわらず、従来通りの経理処理で構わない様になっています。
請求書に登録番号の記載がある場合、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトにて、登録番号の照合をおこなう必要があります。交付を受けた請求書に記載されている登録番号が公表サイトで確認できない場合は、登録番号の記載がない請求書と同様の取り扱いになります。
適格請求書に記載されている登録番号が公表サイトで確認できた場合、その他の記載要件をすべて満たしているかどうかを確認する必要があります。その他の記載要件とは、登録番号以外の次のような記載項目のことをいいます。
・取引年月日
・請求書等の発行者名
・取引内容
・金額(消費税含)
・請求書等の受領者
・軽減税率対象品目の表示(該当する場合)
・税率ごとの合計金額
・税率ごとの消費税額
上記の項目が記載されていない場合は、適格請求書の記載要件を満たしていないものとされるため、仕入税額額控除の対象外となります。
上記の段階で請求書に記載漏れがある場合は、請求書発行者に記載漏れである旨を連絡し、再発行を要請します。再発行を受けて上記の記載項目をすべて満たしている場合は、適格請求書として仕入税額控除の対象となります。
次に取引先から交付を受けた請求書に、「登録番号の記載がない場合」の事例です。交付を受けた請求書などに登録番号の記載がない場合は、そのまま事務処理を終えるのではなく、相手先に確認をおこなうことで処理が変わる可能性があります。
まずは、請求書に登録番号が記載されているかどうかを確認します。登録番号の記載がある場合は上記の事例①に沿って作業をすすめます。ここでは登録番号が記載されていない場合を想定し、次の作業に進みます。
請求書に登録番号の記載がない場合、すぐに仕入税額控除ができないと諦めるのではなく、相手に連絡をおこない、適格請求書発行事業者であるかどうかを尋ねるようにしましょう。
相手が適格請求書発行事業者の登録をおこなっている場合は、請求書の再発行を依頼しましょう。請求書を再発行してもらったあとは、登録番号が記載されているかどうかを確認し、次の作業に進みます。
再発行を受けた請求書に登録番号が記載されていることを確認し、次の記載要件を満たしているかどうかを確認します。
・取引年月日
・請求書等の発行者名
・取引内容
・金額(消費税含)
・請求書等の受領者
・軽減税率対象品目の表示(該当する場合)
・税率ごとの合計金額
・税率ごとの消費税額
上記の記載要件も満たしている場合は、仕入税額控除の対象となります。
このように、交付を受けた当初は登録番号の記載がない場合でも、最終的に仕入税額控除の対象となる場合があります。登録番号の記載がないからといって、すぐに仕入税額控除の対象外となるわけではありません。
適格請求書発行事業者は交付を受けた適格請求書について、国税庁のホームページで登録番号を確認することができますが、その際に気をつけるべきポイントがいくつかあります。
国税庁ホームページにおいて、すでに公表されている法人番号についても検索時には同じ名称の法人が複数出てきます。そのため、調べたい法人を特定することに時間がかかるだけではなく、誤った情報をもとに登録番号の確認をおこなってしまう可能性もあります。
また、請求書や領収書などに記載されている名称が屋号などである場合は、さらに事務作業が煩雑になる可能性もあります。
国税庁ホームページにおける公表サイトにて表示される住所は「登記所在地」となる予定です。そのため、確認したい法人の登記所在地を知っていなければ、照合作業に時間がかかってしまう可能性があります。
登記所在地と実際の店舗や営業所の住所が異なることは珍しくないため、確認の手間が増えることが予想されます。
インボイス制度では、
・法人番号
・法人名称
・住所(登記所在地)
などを用いて照合することができますが、必ずしも10月1日時点で登録手続きが完了し、公表サイトにて公表されているとは限りません。場合によっては手続き完了から反映まで時間がかかる場合があることや、
「既に申請しているけれど、まだ登録番号が届いていない」
といったケースも想定されます。
また、10月1日以降に登録手続きをおこなう事業者もいらっしゃるかと思いますので、公表サイトを随時確認していく必要があります。
いかがだったでしょうか。インボイス制度にかかる税制改正から手続きに必要な届出書、そして、実務における事務作業の実例などをあげてみましたが、非常に面倒だと感じる方がほとんどではないでしょうか。
「適格請求書発行事業者として登録をおこなったほうがよいのか」
という検討だけでなく、実際に制度が始まったあとの事務負担を考えると、これまで以上に経理担当者などは忙しくなるのではないかと思います。
また、インボイス制度における軽減措置や特例など、今後も制度内容が変更されることもあるかと思いますので、今後の情報には気をつける様にしましょう。
当事務所においても、インボイス制度をはじめとする様々な税務情報は、随時みなさんへお伝えできる様に尽力していきたいと思います。今回は少々ボリュームがある記事になってしまいましたが、少しでも皆さんの力になれていれば嬉しい限りです。
中央みらい会計事務所は、起業・会社設立から日々の会計および税務処理、経営アドバイスまで、事業者の方を幅広くトータルサポートいたします。適切で、かつ最適な会社設立から経営コンサルまでトータルサポートしてほしい方は気軽にご相談ください。