さて、前回は「法人の勘定科目解説シリーズ」ということで接待交際費について解説しましたが、いかがだったでしょうか。接待交際費という1つの勘定科目でも気をつけないといけないことがたくさんあることが理解できたのではないでしょうか。
今回は第2弾ということで「役員報酬」について解説していきたいと思います。法人にとっては欠かせない勘定科目の1つですので、既に知っている人もこれから法人について学んでいく人にとっても有意義なコンテンツになれば幸いです。
それでは早速いってみましょう!!
役員報酬とは取締役や監査役といった役職をもつ人に支払う報酬のことを指します。
役員報酬は「役員に支払う給与」という認識で間違いではないのですが、従業員へ支払う給与との大きな違いは「契約形態」になります。
具体的に役員と従業員とでは次のように内容が異なります。
役員・・・・法人との委任契約に基づき、会社経営などの任務対価として「報酬」を受け取る
従業員・・・法人との雇用契約に基づき、労働を対価として「給与」を受け取る
このように役員報酬は「役員に支払う給与」という認識で間違いではないですが、厳密には従業員へ支払う給与とは内容が異なるということになります。
上記ははあくまでも役員報酬を掘り下げた観点ですので、
「 役員に支払う給与 = 役員報酬 」と考えていただいてOKです。
役員報酬は従業員の給与のように、「いつでも」「好きな金額」を支給して良いわけではありません。役員報酬については定款や株主総会などによって定められることになっているため、正しい手続きを踏んだうえで決定する必要があります。
そこで気になるのが「役員報酬の金額」です。
役員にとっては大事な収入であり、会社にとっては経費となる大事な部分でもあります。そのため、お互いにとって適切な金額を設定する必要があるのです。
ここでは役員報酬の金額を決める際の基準について、いくつかご紹介していきたいと思います。
役員報酬の決め方の基準の1つに「会社の諸経費とのバランス」があります。
この基準では役員報酬を除いた状態における損益計算書や、資金繰りを分析することで役員報酬の目安金額を決定します。そのため、
・役員報酬を支出しない場合にいくらの利益が出ているのか
・役員の会社に対する貢献度と役員報酬の金額が見合うものなのか
・役員報酬を支出した分赤字になっていないか
などの考慮をおこなっていく必要があります。
ただし、ここで注意すべきなのは「資金繰り」です。
「利益が出ているから役員報酬をたくさん出そう」
と無理な役員報酬を設定してしまうと、思わぬところで資金繰りを圧迫することに繋がります。
黒字であっても会社が倒産することは珍しくないため、資金繰りにも十分注意して検討していきましょう。
役員報酬を決める際には個人の所得税を考慮する必要もあります。役員報酬は会社にとっては経費の1つであるため、多く支出すればするほど法人税や法人事業税などを減らすことができます。
しかし、反対に役員報酬を多く支出するほど、役員の所得は増加し個人に対して課せられる所得税や住民税などが増加します。
そのため、会社と個人の税金のバランスを考慮し役員報酬の金額を決めるようにしましょう。
役員報酬の参考数値として全国の相場を参考にするという方法があります。相場の数値については下記の国税庁が公表しているデータを参考にすることで、同規模で会社経営をおこなっている役員の給与に関する相場を知ることができます。
参考:標本調査結果|国税庁
しかし、このデータはあくまでも参考数値にすぎないため、必ずしも同等の役員報酬の金額でなければならないということではないので注意が必要です。
役員報酬は株主総会によって金額が決定するため、役員報酬の金額を変更する際は株主総会を開催する必要があります。法人税法上、役員報酬を損金として経費処理するためには様々な規定がありますが、金額の変更が認められる場合については、以下の3つの改定理由に該当していなければなりません。
通常改定とは翌事業年度の開始日から3ヵ月以内に開催される株主総会により、役員報酬の金額が改定されることをいいます。通常であれば、通常改定から次回の通常改定までの間は役員報酬の金額を変更することができません。
臨時改定とは役員の地位が変更した場合や職務などが大きく変動した場合に認められる改定のことをいいます。たとえば、次のようなことが臨時改定事由に該当します。
・代表取締役退任により、別の取締役が代表取締役に就任した場合
・従業員から新たに取締役に就任した場合
・組織再編制などが発生した場合
業績悪化改定とはその名のとおり、会社の業績が悪化した場合に認められる改定のことをいいます。ただし、単なる業績の悪化ではなく、「著しく」業績が悪化した場合にのみ認められるため、少し業績が悪化したぐらいでは改定することができません。
また、業績悪化時の改定であるため、役員報酬の減額は認められますが増額については認められない点については注意が必要です。
役員報酬の経費計上時の注意点
役員報酬を支給する場合には「定期同額給与」という規定に則って支給する必要があります。このルールを満たしていない場合は法人税を計算する際の所得計算時に役員報酬を経費から除外しなければならないこともあるため注意が必要です。
前回の記事をきちんと理解できている人は、もう気づいているはずです!
そうです!前回の記事で解説した「損金不算入」ってやつです!
まだ、読んでないよ!という方はこちらを参考にしてくださいね。
:接待交際費とは?いくらでも経費に計上できるわけではないってホント?
話を戻しまして・・・
定期同額給与とは毎月支給する役員報酬の金額を一定にするルールのことです。たとえば、株主総会によって役員報酬を50万円と決めていたにもかかわらず、
「今月は業績が良かったから役員報酬を100万円にしよう」
「今月は業績が悪かったから役員報酬を20万円にしよう」
などのように毎月の支給額を変動させてしまうと、定期同額給与に該当しなくなります。
そのため、役員報酬の金額は原則として年に1度開催される株主総会などによって決定した支給額としなければなりません。(上記でいう通常改定のことです)
そして、「臨時改定」「業績悪化改定」のように、一定の要件を満たす場合にのみ事業年度途中に役員報酬の金額を変更することができます。
役員報酬については役員にとっては個人の大切な収入源となりますが、会社にとっても法人税を減らすための大事な経費であり、貴重な会社資金から支払われるものです。そのため、適切な金額を正しい方法で処理していかなければ、会社にとっても役員にとっても不本意な税金を発生させてしまいます。
そのような状況に陥らないためにも、役員報酬の金額や支給ルールなどについて正しい知識を身につけておくことをおすすめします。